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「太りやすい体質」を決める遺伝子(続報)
ここ1、2年の間、筋肉や体脂肪についての生命科学は、恐ろしい速度で進歩しています。前回、「生来の筋量を決める遺伝子」として新しく見つかった、GDF−8(ミオスタチン)というタンパク質をつくる遺伝子のお話しをしました。ミオスタチンは、筋肉が分泌し、自分自身の肥大成長を強く抑制するはたらきをもちます。ミオスタチン遺伝子をはたらかなくした「遺伝子組み換えマウス」は、通常のマウスに比べ、筋量が2〜3倍ある、「スーパーマウス」になります。その後、同様の技術を用いて、筋量の大きな(食用部分の多い)ウシを作ったという研究と、そもそも筋量のやや多いウシの家系では、ミオスタチン遺伝子に小さな変異があったという報告が、それぞれ9月号の専門誌に報告されました。これらの研究は、「筋肉のつきやすい素質」があり、それが遺伝することを示唆します。一方、体脂肪について同様の可能性があることを本誌96年1月号で紹介しました。その後、著しい研究の進歩がありましたので、そのお話しをしましょう。(石井直方)
肥満遺伝子(ob遺伝子)
私たちは、肥満に関わる遺伝子(obese gene:ob遺伝子)を、7番目の染色体に持っています。体脂肪の脂肪細胞に中性脂肪が蓄積してくると、脂肪細胞はこの遺伝子を用いてリプチンというタンパク質をつくり、分泌します。リプチンは脳の視床下部という部分にはたらいて、食欲を減退させ、エネルギー摂取を抑えると同時に、からだの活動を高め、エネルギー消費を促します。このようにして、ob遺伝子は、体内の脂肪量を一定にしていると考えられています。これらの事実から、リプチンを肥満症の治療のためや、「究極の痩身薬」として用いる動きがあることを、96年1月号でお話ししました。

肥満遺伝子とヒトの家系
肥満遺伝子に異常のあるマウスは、確かに極度の肥満になります。しかし、ヒトでも同じことがいえるのでしょうか。これに対する最初の解答が、Montagueらによって、本年6月28日のNature誌に発表されました。彼らは、重度の若年性肥満を示す家系について調べ、この家系に属する子供たちのob遺伝子に全く同じ変異があることを発見しました。この報告は、私たちヒトでも、ob遺伝子が「太りやすい体質」を決めるひとつの要因になっていることを示します。

リプチン感受性の問題
ところで、リプチンは、脳の視床下部にはたらきますので、この部分のリプチンに対する感受性が低いと、リプチンがたとえ正常に分泌されてても、やはり肥満になります。マウスについては、このことを強く示唆する研究報告がなされています。これは、例えばインスリンは分泌されるのに糖尿病になる、「インスリン非依存型糖尿病」の場合に似ています。糖尿病の90%以上がこちらのタイプなのと同様、肥満体質の大部分も、視床下部のリプチン感受性の低下が原因かも知れません。しかし、「どのようなメカニズムでリプチン感受性が決まるのか」、「運動するとリプチン感受性が上がるのではないか」などについてはまだ不明です。

脂肪を無駄に消費するタンパク質
それでは、テレビの「大食い王」のように「いくら食べても太りにくい人」がいたり、逆に「あまり食べないのに太りやすい人」がなぜいるのでしょうか。食物の消化吸収効率の差も一因でしょうが、この点についての説得力のある研究はあまりありません。一方、「ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP)」という、新しいタンパク質が見つかり、このタンパク質と肥満との関係が注目されはじめました。このタンパク質は最初、冬眠をする動物がもつ脂肪組織(褐色脂肪)に見つかり、脂肪を燃料として効果的に熱生産を行なうためのタンパク質であることが分かりました。すべての細胞は、酸素を取り込んで脂肪や炭水化物を分解し、エネルギー源であるATPをつくります。このとき、多量のATPを生成するのが、ミトコンドリアにある「電子伝達系」という反応系です。UCPは、この電子伝達系のはたらきを変え、脂肪や炭水化物のもつエネルギーを熱として放出してしまうのです。冬眠中は、この熱が体温を保持ために重要になるのですが、同様のタンパク質(UCP−2)が、冬眠とは関係のない「白色脂肪」にも見つかりました。白色脂肪は、私たちの体脂肪にあるものです。したがって、私たちの脂肪細胞は、余剰の脂肪を熱として「無駄に」消費し、脂肪貯蔵量を増やし過ぎないようにするシステムをもっている可能性があります。つまり、UCPがうまくはたらかないと、「あまり食べないのに太りやすい」ことになります。このUCPをつくる遺伝子と肥満体質との関係は、今後大変興味深い問題といえるでしょう。

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