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スローリフトの効果 |
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最近,関節や循環器にあまり負担をかけずに筋の機能を高めるトレーニングとして,「スローリフト」が注目されています。その実際の効果については,まだ十分に研究されているわけではありませんが,全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)も,「筋を肥大させるにはそれなりの効果がある」という見解を示しています。今回はこのスローリフトについて考えてみましょう。
【クイックリフトとスローリフト】
負荷がそれほど大きくない場合,負荷を上げ下げする速度をある程度コントロールすることができます。速い動作と遅い動作の両極にあるのが,それぞれクイックリフトとスローリフトです。クイックリフトには長い歴史があり,重量挙げのクリーン,スナッチ,ジャークなどがその代表的な種目です。クイックリフトの特徴は,負荷に最大限の上向きの加速度を与え,あとは慣性に任せるということです。このような場合,負荷に大きな加速度を与えるため,(力)=(質量)×(加速度)に相当するきわめて大きな力が瞬間的に発揮されます。例えば,自重のみのジャンプでは,体重が70kgであっても,瞬間的には200kg重を超える力が床に対して発揮されます。外見上の負荷が小さくとも,実際にはこのような大きな力を筋が生み出し,関節などにも同等の負担がかかるわけです。一方,スローリフトは,あえて動作速度を遅くして行います。例えば,ヒンズースクワットを,10秒かけてしゃがみ,10秒かけて立ち上がるようにします。この場合,発揮される力は体重とほぼ同じですが,力積(=力×時間)がきわめて大きくなるという特徴があります。
【動作速度を調節するしくみ】
一定の重さの負荷を,速く上げたり遅く上げたりするのは,どのようにして調節されているのでしょうか。筋肉を構成する1本1本の筋線維は,基本的には最大の力を発揮するか,力を発揮しないかの2つの状態しかとりません。これを「全か無の法則」と呼びます。したがって,筋の中の筋線維すべてを活動させると,必然的に最大筋力に対する負荷の割合で決まる最大の速度で負荷が上がるということになります。筋の中で活動する筋線維の数を減らせば,発揮筋力に対する相対的な負荷が大きくなりますので,速度は遅くなります。より正確には,これに筋線維を活動させる神経信号の周波数も関わってきますが,基本的には,筋の活性化のレベルを高めれば速度は速くなります。したがって,一度により多くの筋線維を活動させるためには,なるべく速い速度で負荷を上げた方がよいということになります。この点が,クイックリフトのメリットのひとつといえます。逆に,スローリフトでは,動作中に活動している筋線維の数は多くありません。
【筋力発揮と筋内血流】
上記のような生理学的メカニズムに立てば,より多くの筋線維をトレーニングするためには,常に出しうる最大の速度で負荷を上げる方がよいということになります。しかし,これまでのさまざまな研究から,効果的に筋を肥大させるためには,筋力の発揮時間も重要であることが示唆されています。アイソメトリックな筋力発揮を持続的に行う状況を想像してみてください。このような場合,筋力発揮が最大筋力の約40%のレベルを超えると,筋の内圧上昇によって,筋内の血流が低下することがわかっています。このような状態が続くと,筋内が低酸素になり,乳酸などの代謝産物も蓄積します。その結果,代謝物受容反射というしくみによって下垂体から成長ホルモンが分泌されたり,筋線維周辺の成長因子の濃度が変化したりして,筋線維の肥大が促されるというメカニズムが考えられます。
【アイソメトリックと何が違うのか?】
このように考えると,いわゆる「空気椅子」のようなアイソメトリックトレーニングがよいとなりますが,実はそうではありません。アイソメトリック運動は,外に向かって仕事をしません。加えて,筋が生産する熱もきわめて少ないという特性があります。したがって,エネルギー消費が小さく,代謝物の蓄積効果も小さいことになります。したがって,3分間の「空気椅子」よりは,1回20秒のスロースクワットを10回行った方がよいといえるでしょう。ただし,立ち上がった状態で休みを入れることなく,常に筋の緊張を解かないようにする必要があります。
【ある程度の負荷は必要】
負荷については,際限なく軽くて良いというわけではありません。前述のように,筋の血流に影響を及ぼすのは最大筋力の40%以上の負荷ですので,やはりこのあたりの負荷が目安となるでしょう。スクワットでは,1RMが自体重と同等レベルの重量であれば,負なし(自重のみ)のスロースクワットで顕著な効果が期待できることになります。
【実際のトレーニング効果】
スローリフトの実際の効果については,私の研究室でも予備的な実験を行っています。レッグエクステンションを用いた実験では,50%1RM の負荷,10回×3セット,3ヶ月という条件で,10〜15%の筋肥大が起こりました。これは十分な効果といえるでしょう。高齢社会を迎え,こうしたさまざまな工夫をトレーニング方法に取り入れることが,ますます重要となると考えられます。
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